SHINJI HOSONO PHOTOGRAPH

Vol.2 藤江健司さん 4

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前田:「ヤングジャンプ」のグラビアは、恋愛が始まる瞬間だったんですね。


藤江:でもそれはそれでたくさんの女の子が雑誌から巣立っていったし、そこから(広末)涼子ちゃんも出てきた。 グラビアを見て、その女の子を好きになって欲しい気持ちが届いたようで嬉しかったです。

ただグラビア表現としては3〜4年やみくもにやってみて同じところをグルグル回っている感覚が出てききた。もっとリアリティのある表現もやりたいなと思うようになった。


前田:そのきっかけみたいな撮影ってあったんですか。


藤江:「ヤングジャンプ」で中森明菜にグラビアにでてもらうことになって、撮影は塚田和徳さんでした。その撮影に立ち会うと、レフ板で顔に光をあてたりしない。

驚いて編集長に話したら、わかっていて「レフ板で光をあてたら、顔にあるはずの陰がなくなる。だから見た目と違うだろう」。そこで初めて自分たちがやってきたことは「夢物語」だということに気が付いた。そこから編集者も見た目のまんま、リアルさを求めたくなってくる。そんな時に細野さんが「ヤングジャンプ」に登場することになった。

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前田:細野さんの撮影はどんな感じでしたか。


藤江:もう「どういうことなんだ」「そんなことやっていいんだ」の連続でした。例えば奥菜恵をいきなりモノクロだったり、6×6(一般的なフィルムは35mm幅であるのに対して6cm×6cmの正方形で高画質)とか普通グラビアでは使わないフィルムで撮影する。当時雑誌はポジフィルムなんですが、ネガでも撮る。

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前田:僕は最初から細野さんだったので、通常の撮影がそういうものだって思っていましたが、逆に後から他の出版社の撮影って35mmのポジを使うのが常識という編集部が多いと聞いて驚きました。 



藤江:最初「ヤングジャンプ」では細野さんの担当って、僕じゃなくて他の編集者だった。細野さんは、フィルムからして僕らの知らない種類のものを使っているのがわかるから、細野さんのことが気になってしかたがなかった。

僕ら編集者がその頃、撮影にあたって考えることは、どんな場所で、どんな風に撮るか、でした。マンガ誌だから女の子のキャラクターも作る必要があると思って、撮影ごとにストーリーも作っていた。

例えば、その女の子が夏休みにおばあちゃんの家に一人旅をする。そこで、こんな出来事があって出会いがあって...みたいなシナリオみたいなものも書いていた。でも、撮影技術的な事は齋藤さんに全ておんぶにだっこでした。

だから「夢物語」の土台の上に、ドキュメンタリー的なものを盛り込むとか、もっとリアルなものをやりたいと思ってはいても、具体的に技術的なことを含めて、カメラマンにどう指示していいかわからない。

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細野:アーティストの撮影って、やっぱりグラビアで撮る女の子に比べて圧倒的に時間が少ないし、場所の制約も多い。

例えばツアー中だったら、地方都市を回った時に、移動時間の合間を縫っての撮影になる。アーティストがお城とか観光名所とかに行ってみたいと言い出したら、それについていって「ここなら絵が撮れる」と思った瞬間に、「そこに立って。撮りましょう」と頼む。

一緒に電車乗っていて、車両がかっこいいなと思ったら、そこで撮る。スケジュールがタイトな中で撮らなくてはいけないし、もう常にロケハンしているようなもので。しかもアーティストが今撮れる状態か見ていないといけない。

アーティストの動線になりやすい、ホテルの廊下やコンサート会場の地下駐車場は、もう定番のようによく使った。地下駐車場って壁に味があるところが多くて、モノトーンの世界が演出できる。


前田:音楽誌では、年間12回撮影あるとして、シングルやアルバム発売のタイミングでは、撮影時間がきっちりもらえたりしますが、他のタイミングはそういう撮影が多くなりますね。特にビッグネームでは。

しかしアーティストサイドからすれば、そういった同行撮影を許すのは、写真のレベルを含めて信頼関係のある特別な場合だけです。


藤江:だからこの前の「STAR SHOT TALK」で話した、細野さんの(広末)涼子ちゃんの撮影みたいなことができるんですね。彼女のムービーの仕事の合間で、あっという間に撮ってしまう。

(続きます。)