SHINJI HOSONO PHOTOGRAPH

STAR SHOT Talk Vol.3 佐藤優さん 3

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佐藤:この時、稽古場は撮っていないよね。ゲネプロ(本番直前に本番同様に舞台上で行う稽古)でいきなりだから、カメラマンにとってはライブを撮る感覚に近かったかもしれない。

普通公演を撮る時には、稽古場で稽古しているところから入るんだけど。この写真集ではできるだけ演劇作品として完成品を見せたいということがあるんだけど、トレーナー着て稽古している写真がない。9割が本番の写真だと思う。これはかなり珍しいことなんです。


藤江:写真集にあるオフショットで、吉田日出子さんのポートレートがありますね。

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細野:日出子さんを特写したんです。


佐藤:この撮影は面白かった。


細野:背景の公演ポスターも同じものを何枚もわざわざ貼ったんです。


藤江:いい写真ですね。すごくいい表情です。

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佐藤:だって日出子さん、この撮影のためにわざわざ自分で服を選んで買ってきたんですよ。最初は細野さんの写真を見た時には変な顔して「何これ」だったのが、この撮影が終わる時には、もう「細野さん、いいんじゃない」ですからね(笑)。

コクーンにわざわざ連れ出して何カットも撮りましたね。普通はもっと引いて撮るんだけど、これも新しかった。


藤江:細野さんにしてみれば自然なことだったんでしょうけど。


細野:いや、さっきも言ったように『上海バンスキング』を撮ること自体には、それがレジェンドだといってもプレッシャーではなかったけれど、編集者・佐藤さんの〝無言のプレッシャー〟はすごく感じていた。

佐藤さんは僕より年齢ははるかに上だし、いろんな経験をしている。そんな人に「自由に撮っていい」って言われたわけだから。


佐藤:そう言ったのは、井出さんと仕事で付き合ってきたからかもしれない。あの人は先輩だから、彼から「こういうのがカメラマンなんだ」というのを学んだ。


細野:僕も井出さんと同じ時期に自由劇場の芝居を撮っていたことがあります。とっても優しい方で、劇団のカラーを教えてもらった。


佐藤:このモノクロの写真はずーっと初期の井出さんの写真です。ザラッとして粗いタッチです。

井出さんは当時赤坂のリキマンション(プロレスラー力道山が経営していたマンション)に事務所があって、そこでフィルムの現像を自分でするんだけど、特殊な現像らしく、すごく時間がかかった。その徹夜作業によく付き合っていた。


藤江:それが井出さんの独特のタッチを生み出すんですね。


佐藤:そうでしょうね。その頃はその現像したフィルムからベタ焼(フィルムを原寸プリントしたもの)を起こして、ルーペで一緒に見て実際にプリントする写真をセレクトしていました。

今考えると恐ろしく手間のかかることやっていたんだね。僕は井出さんの写真、同じ写真で微妙に焼きが違うモノクロームのプリントを何十枚も持っていますよ。

彼は仕上がりが少しでも気に入らないとすぐ捨てちゃうから。こんだけ時間かけたのに、もったいないと思い、もらって帰った。


藤江:せっかく焼きあげた器が気に入らないから、割ってしまう陶芸家みたいですね(笑)。


佐藤:これまで自由劇場の写真は井出さんにまかせてきたんだから、これからは細野さんがやりたいようにやって欲しい、ということだったんだろうな。でも上がってきた写真が普通のクリアな写真だったら、そうは思わなかったろうけど。

自由に撮ってもらったほうが、気持ちよく撮れていいものが上がってくるというのも井出さんから学んだ。


藤江:編集者があれこれ指示するより、カメラマンが自由に気持ちよく撮れる環境を作っていくことが、大切だと。

(続きます)