SHINJI HOSONO PHOTOGRAPH

Vol.2 藤江健司さん 7

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前田:ところで細野さんは、96年から「ヤングジャンプ」で仕事を始めたわけですが、これまで師匠の清貴さんがやってきた流れを変えようと意欲を燃やした、というようなことはあったんでしょうか。


細野:意欲というよりまず何をやっていいのかわからなかった。もちろんアシスタントとして齋藤さんの現場は見てきて、教わったことはもちろんたくさんあるけど、カメラマンとして自分はまた違うアプローチでやってきたわけだから。

それを編集部の人たちは、温かく受け入れてくれたと思う。ひとつ機材を少なくしよう、というのは、あったかな。

藤江:それはもう、細野さんの機材の少なさにびっくりした。ロケでスタッフが空港で集合すると、それまでの撮影ではムービーみたいに機材が山のようにあった。

細野:最初の頃はカメラもいろいろ使ったよね。35mmもモノクロもライカも使った。

でも男の子が彼女と旅するのにカメラやレンズを5個も下げて行くわけはないじゃない。カメラ1個しか持っていかないよね。だからベースは1個にしていた。

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藤江:でもそれまで細野さんは、ZARDやB'zとか日本国中誰もが知っている人たちを撮るのが日常だったわけですよね。


その人がデビューしたてのまだオーラもない素人同様の女の子を撮るというのは、あまりにも落差があったんじゃないですか。

細野:Mr.Childrenがデビューしたばっかりの頃に撮るぎこちなさと、撮影に慣れていない女の子を撮るぎこちなさはやっぱり違うんだよね。

ミスチルだったらデビュー前に一応大人の経験をしている。自分たちで曲を作ったり、練習したり、ライブやったり、バンドを運営していくのにもお金がかかるわけじゃない。

ところが女の子たちには、そういう自分の意思で動くという大人の経験がない。だから待つしかない、と思っていた。だから、本人たちの中で何かが動き出すのを、ひたすら待つ。

編集者から"撮れていますか"って聞かれると本当に困る。やっぱり女の子たちと一緒の時間を過ごしていかないと撮れないからね。

でも「ヤングジャンプ」の編集は聞かずに待ってくれた。そういう環境を作ってくれた藤江さんたちに出会えたのは、ラッキーだった。

藤江:自分で動けない子でもグラビアを成立させる方法として、決めポーズのようなものがあるじゃないですか。首をかしげるとか、胸をよせるとか、浜辺で四つん這いになるとか(笑)。それができたらOKみたいな。

ところが編集長の山路さんはそういうのが嫌いだった。「女の子が普通浜辺で、四つん這いなるか?」。

確かにそうですよね。女の子を記号としてとらえない。男の欲望がストレートにわかるポーズはさせない。普通やらないことは、グラビアではやらないというのが編集長の方針でした。

そういう意味で、ゴールを決めず、女の子が自分の意思で動くようになるのを待つ、という細野さんのスタイルは「ヤングジャンプ」にあっていたのかもしれない。

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