SHINJI HOSONO PHOTOGRAPH

Vol.3 佐藤優さん 12

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藤江:しかし誰も細野さんの視点では見ていないわけですよね。細野さんはいろんなところを動きながら撮りますから。まして役者さんは自分が見えていないはずです。でも中嶋しゅうさんほどの役者さんが細野さんの写真を見て涙を流すほど感動する。


前田:客席から自分がこう見えているというイメージは絵としてあるかもしれません。


藤江:人間の記憶って不思議なところがあって。中学校の水泳部の時に夏になると1500mを延々と何回も泳がせられた。その時の思い出って俯瞰から見た自分が泳いでいる絵なんですね。それを見たはずはないのに。


細野:カメラマンとしては、カメラは記録の機械だから、記憶をこえられないといけないと負けだと思う。


藤江:つまり、見得だったり、定位置から撮った記録では記憶を超えられない、ってことですね。観光地の写真ってそうですよね。


細野;ライブの時には周りに撮っているカメラマンもいたりするけど、僕の中では見えてるところが一緒だと、その時点でアウトなわけです。その点だけは次元が違うといのが大切で。だから僕にとっては一回一回が勝負なんです。


佐藤:そこは、ポスター撮りのような撮影とは違うの?


細野:そういう撮影はある意味、楽なんです。テクニックと経験で勝負、キャリアを積めば積むほどいいものが撮れると思うんですよ。人間関係もできてきているから。舞台を撮るのは、それが一切関係ない。今まで撮れてきたからといって、今日撮れるとは限らないのが舞台なんです。これは経験が活きない。いつかは打ちのめさる日がきたら、やめるしかないんです。


佐藤:いや、私が辞めさせません。こういった舞台の写真は、今のところ細野さんしか撮れないし、このレベルであとに続くカメラマンもいないから、大変だろうけど、舞台の世界のためにも撮り続けて欲しいですね。

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(終わり)