SHINJI HOSONO PHOTOGRAPH

Vol.3 佐藤優さん 6

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細野:佐藤さんと仲良くなって、細かくメモをとっていたりする仕事振りだったり、ベースボールが趣味だったりとか、人となりが見えてくると、佐藤さん個人の魅力で、一緒に仕事するのが楽しみになってきましたね。

あと佐藤さんの指示は少ないけれど、質問すると実に細かく教えてくれるんです。例えば僕がシェイクスピアの演劇の撮影に入るとして、その芸術性とか評価はわからないじゃないですか。佐藤さんに聞くと、そもそもシェイクスピアの演劇はこういうもので、これまでの解釈はこうだったけれど、今回はこういう解釈で演出されているとか、分かりやすく教えてくれるんです。


藤江:なるほど。では佐藤さんから見ると当時細野さんはどんな人でしたか。


佐藤:いつも言っていることだけど、付き合って2~3年の頃は若いってこともあってイライラしているように見えた。けれどそれは決してネガティヴな意味ではなくて、細野さんのイライラしている様子に〝怒れる若者たち〟と呼ばれた世代のことを思い出した。

これはイギリスの1950年代から60年代初頭に活躍した作家たちのことで、彼らが〝怒れる若者たち〟と呼ばれるようになったのは、ちょうどこの7月に新国立劇場でやっていた、 J.オズボーンの56年の芝居『怒りをこめてふり返れ』がきっかけになっているんだね。

僕はリアルタイムでの体験ではないけど、演劇の世界では「この一本で世界が変わった」とさえ言われるほど衝撃を与えた作品です。

その1年前には『理由なき反抗』のジェームズ・ディーンが事故死して、すでに伝説になっていた。彼も50年代の若者がイライラしている感じを体現していた。

だから細野さんが常に緊張して真剣勝負で声をかけられない感じで、それがイライラしているように見えても、僕には好感が持てた。だって若いのに鬱屈もなくてヘラヘラヘラ営業笑いしているカメラマンなんて信用できないじゃない。

細野さんは売り込まないんだよね。カメラマンって営業しようと思うと、プリントを渡したりするじゃない。そういうことを決してしないところも信用できた。だから他でどんな仕事をしているかは具体的には知らなかったし、聞かなかったかな。


細野:他のカメラマンが作品撮りをするとはよく知っているんですけど、僕にはなぜそれを作る意味がよくわからない。自分の普段の仕事が作品になればいいと思っているから。

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(つづく)